パイプの煙、その中味
こんな表題だとロマンチックな随筆のようですが、煙の薬理学とでも申し上げた方が良いかも知れません。酒とタバコは我々の日常生活にとけ込んだ嗜好品です。しかしこれら二つの歴史には大きな違いが認められます。酒は古代から人類の生活の中に見いだすことができ、南から北まで何処でもその存在が認められます。「酒は百薬の長」と言ってうまく使えば体に有益になることが沢山あります。一方タバコは「百害有りて一利なし」と言われております。梅毒と並んでコロンブスのアメリカ大陸発見に由来するもので、その後の百年で、各国の政府が禁止したり、時には刑罰まで科したにも係わらず世界中に広がってしまいました。
最近は喫煙と発癌との関わりが証明され、有識者の間では禁煙する人達が増えておりますが、一方で、煙害の正確な知識を知ってか知らずか、若い女性の喫煙が目立ちます。筆者もかってヘビースモーカーで、消化管潰瘍で手術を奨められた瞬間に禁煙した経験があります。その時の禁断症状についてもお話しましょう。
タバコを吸わない人からすると、何であんな不味いものを好むのか理解に苦しみます。口が臭くなり、周囲に居るヒトの衣服にまで匂いが染み着くので、嫌悪感を持たれるのを、喫煙者はご存知ないようです。タバコは発癌と循環器障害を起こすことが知られており、喫煙者の同居人は、そうでないヒトより数倍(3倍),肺機能不全や発癌の危険に曝されていることが疫学調査で明らかになりました。
タバコをくゆらせている姿は一服の絵です。タバコを燃やすと約4000種類もの物質が発生するそうです。その中にはガス状のものと粒子状のものとあり、ガス状でヒトにとって好ましくないものに、一酸化炭素、二酸化炭素、酸化窒素、アンモニア、揮発性ニトロサミン、シアン化水素、揮発性の硫黄化合物や窒素化合物、炭化水素、アルコール類、アルデヒド・ケトン類などがあり、粒子状の成分にはニコチンやタールが含まれております。タールの中には膀胱癌を特異的に発生させるニトロサミンや強発癌性のベンツパイレンなどが含まれており、健康に被害をもたらすものは、主に一酸化炭素、ニコチン、タールであるといわれております。
タバコの主成分であるニコチンの作用は、ヒロポンやコカインより弱く、特異な興奮作用があります。習慣性があって、一度憶えたら止められなくなります。喫煙者がニコチンを吸収すると手が振るえるようになり、脳波にも変化が認められます。
理論的には筋肉を弛緩させ、記憶を促進し、食欲を抑え、刺激に鈍感になると考えられております。タバコを吸うとリラックスな気分になり、頭が冴えてきて書き物などしている時に立て続けに吸ってしまうのも、このような作用に基ずくと考えられます。
タバコを長期間愛用すると、冠状動脈疾患から肺ガンまでいろいろの重篤な病気に罹りやすくなります。病気になる割合は喫煙量に比例し、タバコを吸わないヒトより死亡率で平均1.