■ 『街角の発明家』 何でもやってみようの精神 (2004.7.18)
著者・田辺四郎さんは小さい頃から、よく怪我をしたそうだ。3つのときは、階段から転げ落ちたとのこと。猫が両手を前にして下向きに降りるのを見て真似したそうだ。身近なものを利用して「何でもやってみよう」の精神が随所に横溢している。アイデアに古さを感じることもない。畜熱交換器の着想で、研究所の食堂に冷風を送ることを考えたのもそうだ。
銀の発熱860
ジュースの空缶に水を入れテープなどで孔をふさぐ。この空缶を大きな段ボール箱に並べれば蓄熱交換器ができ上がる。上から温風を入れると、温風の熱は空缶の水に移り、下から冷たい空気が出てくる。空缶を直径約2mぐらいに蜂の巣状に並べ、その上にビニールフィルムをのせる。さらにその上に積み重ねて5段積みとする。これで冷風装置のでき上がりだ。空缶総数は2万本!
非常に高速沸騰の水
夜間に換気ファンをまわし冷たい空気で空缶の水を冷やす。昼にはタイマで換気ファンをまわし、外の熱い空気を缶の冷たい水で冷やす。空気管を通して冷たい風が食堂のなかに入る仕掛けだ。この自然エネルギー利用の冷風装置も、クーラを入れるから、みっともないものは片付けてもらいたい、という研究所の意向で取り払われてしまったそうだ。
この空缶利用の蓄熱交換器なんか夏休みの自由研究のテーマとしても適当ではないでしょうか。
雑誌『ラジオ技術』の古い読者であれば、田辺四郎の名前にピンと来るだろう。1959年から「モーショナルフィードバック(MFB)の実験」を投稿している。MFBは、アンプとスピーカがネガティブフィードバックの中に入るので、アンプも新しく作り直さなければならなかった。その後、タナベシステムと命名し、音場の再生に取り組んだ。「パノラマシステム」は、左右から前方へ広がった風景を見るような音場を実現したそうだ。今話題の5.1チャンネルサラウンドを既に先取りしていた!
背骨につけたマイクの話もユニークだ。マイクで自分の体の中の音が聞こえる。その音はいびきに似ているそうだ。この実験でわかったのは、人間は就眠中に「いびき」という音を使って体の固有の振動を惹起し、体力の回復を計っているということ。いびきをかかないようにするのは就眠中の体力回復をやめさせるということ。貧乏ゆすりも同じとのこと。絶えず座って仕事をする人にとって大切な疲労回復術だという。
◆『街角の発明家』 田邊四郎著、理工図書、昭和62(1987)年/1月刊
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