薬学の時間
2007年11月6日放送分
「腰痛に対する新たな薬物療法」
千葉大学大学院医学研究院整形外科学助教
大鳥 精司
エビデンスが十分でない腰痛の薬物療法
米国では2,500万人以上が腰痛を訴えており、年間1,000億ドル以上の医療費が腰痛治療に費やされている。腰痛の生涯罹患率は85%と報告され、本邦の厚生労働省の報告においても、腰痛は男性1位、女性2位にランクされる国民愁訴である。腰痛は病因を確定できない非特異的腰痛が85%を占めると報告されている。腰痛への薬物療法に関する論文は多いが、十分なエビデンスに耐えうるものは少ない。特異的腰痛、非特異的腰痛、急性腰痛、慢性腰痛はそれぞれ発症機序や治療方針が異なるが、それを同一で論じられることも多い。今回は、最近使用されている薬物療法について述べたい。
急性腰痛に対する薬物療法
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①非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)、COX-2阻害剤
非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)は障害組織、後根神経節、脊髄、脳での疼痛機序に関与するアラキドン酸カスケードにおいて、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性を阻害し、プロスタグランディンの生合成を抑制する。
急性腰痛に対するNSAIDsの有効性はレビューによれば、プラセボ群に比較し1週間後に全般的な改善が認められた人の割合が増加し、鎮痛薬の追加を必要とする人の割合が減少したことが報告されている。NSAIDs間の有用性に関しては差がなかった。併用療法についてであるが、一般に用いられるビタミン剤や筋弛緩剤の報告がある。NSAIDs単独とNSAIDsと筋弛緩薬の併用療法の比較では差はなかった。NSAIDs単独とNSAIDsとビタミンBの併用療法の比較では有意差がなかったとする一方で、ビタミンB併用群では、1週後に仕事に復帰する割合が高いことが示されている。最近は胃腸障害に対し、COX-2阻害剤が注目を集めている。COX-2阻害剤も急性腰痛に有効であることが示されており、私はロキソプロフェンナトリウムやジクロフェナクナトリウム等� ��胃粘膜保護剤と共に初めの1週間、その後COX-2阻害剤メロキシカム、エトドラクの処方に変更している。ステロイドの内服、皮下注射に関しては有効性を示すエビデンスはなく、感染等の有害事象を考えるに推奨できないと考えられている。
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②筋弛緩薬
筋弛緩薬は、中枢性筋弛緩薬と末梢性筋弛緩薬に大別される。一般に本邦で使用されるのは中枢性筋弛緩薬である。急性腰痛に対し、筋弛緩薬ではプラセボに比し、疼痛や筋緊張が軽減し、可動性が高まることが見出された。薬剤間の作用比較では差がなかった。前述したが、NSAIDs単独とNSAIDsと筋弛緩薬の併用療法の比較ではアウトカムに差はなかった。しかし、NSAIDsとの併用で、筋弛緩作用は効果的であるとされる。副作用は眠気、消化不良、口渇、めまいで、一週間の治療でも依存性があった。私は急性腰痛に対しては基本的にはNSAIDsを処方しているが、背筋の筋緊張が強い患者に対しては、カルバミン酸クロルフェネシン、塩酸エペリゾン、塩酸チザニジン等を追加している。
慢性腰痛に対する薬物療法
発症後4週までが急性、4週から12週を亜急性、12週以上を慢性としている。慢性腰痛は心理的背景、疼痛受容の複雑さから治療に難渋する。慢性腰痛はNSAIDsに抵抗性を示すこともあり、また長期の使用により胃腸障害を合併することが危惧される。このような場合は鎮痛補助薬である、抗不安薬、抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬、さらに、麻薬系鎮痛剤等の使用が考えられる。
①NSAIDs、COX-2阻害剤
慢性腰痛に対するNSAIDsの有効性を示した質の高いエビデンスはない。しかし実際の臨床ではNSAIDsを使用する場合は多い。私も運動療法と組み合わせながら、胃腸障害の副作用に注意し、投与を行っている。慢性腰痛にもCOX-2阻害剤の有効性が報告されている。
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②抗不安薬
疼痛の遷延は、不安感を増幅する。また、不安症に伴う慢性腰痛の存在が少なからず認められる。使用される薬物のほとんどがベンゾジアゼピン系の薬物である。薬物は疼痛に興奮性に働くNMDA受容体に拮抗して働くGABA受容体に対して増強的に働き痛みを抑制する。エチゾラム、ジアゼパムの使用が多い。ベンゾジアゼピン系の薬物クロナゼパムは抗てんかん薬として知られているが、筆者は慢性腰痛や、脊髄損傷後の上下肢の痺れ、強度の下肢神経痛、痺れを伴った腰椎疾患に使用している。抗不安薬の慢性腰痛への有効性は認められている。副作用として、眠気、肝機能障害、耳鳴りがあげられる。また処方時に、患者に腰痛に対する薬として使用する旨を十分説明しておくことが重要である。
③抗不整脈剤
ナトリウムチャンネルの阻害剤であり、麻酔剤のリドカインや抗不整脈剤のメキシチレンが使用される。各種リドカインを用いたブロックが腰痛や下肢痛に有効であり、内服での治療も有効であることがある。ドラッグチャレンジテストにおいて、リドカイン静注が効果のある場合に適応となる。
④抗うつ薬
うつと慢性疼痛の関連は深い。レビューによると、うつ病患者における慢性疼痛の合併は13~100%、慢性疼痛患者におけるうつ病の合併は30~100%といわれている。またうつ病に伴う外来患者の疼痛症状の種類としては、腰痛、背部痛が36%と最も多いことが報告されている。また、慢性腰痛の80%は抑うつ状態にあるとされる。
抗うつ薬はノルアドレナリンやセロトニンの再吸収を抑制し、シナプス間隙で増加させ、抗うつ作用を発揮する。下降性疼痛抑制系もこの二つによって賦活化されることが知られており、抗うつ薬が疼痛に関しても有効である証明となっている。
最近注目を集めている選択的セロトニン再吸収阻害剤フルボキサミン、パロキセチンやセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬ミルナシプランは副作用が少ないことから、慢性腰痛への治療薬として注目されている。
慢性腰痛に対するレビューが報告されている。三環系抗うつ薬を慢性腰痛患者に8週間の治療を行った。プラセボに比較し患者のQOLの評価は差がなかったが、疼痛は有意に軽減した。腰痛に対する効果はノルアドレナリンやセロトニンの再吸収を抑制し、鎮痛薬として代用できるとしている。選択的セロトニン再吸収阻害剤やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬を慢性腰痛に対して評価した論文では、慢性腰痛患者に8週間の治療を行い有意に腰痛が軽減した。
私は三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再吸収阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬を適宜使用している。
⑤モルヒネ
当院では、難治性の慢性腰痛に対し最終的には、麻薬を用いている。慢性腰痛に対して有効であることが報告されている。使用方法、使用容量については報告によって様々だが、リン酸コデイン初回量1日60~120mgを目安とし、1日分4で処方を行う。効果によって塩酸モルヒネ末に変更する。制吐薬と緩下剤は初回から併用する。難治性の腰下肢痛に対する効果は65%と良好であり、副作用は25%で眠気、吐き気、便秘であった。近年、アメリカでNSAIDsやCOX-2阻害剤に難治性の変形性膝関節症や急性腰痛、慢性腰痛にTramadol/アセトアミノフェン化合物の有用性が報告されている。Tramadolは二つの作用をもつ薬物であり、μ受容体に親和性があり、かつ、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する。弱オピオイドの位置づけ� �が、副作用の少なさから今後注目される。
また、680人の慢性腰痛患者に対しフェンタニルパッチと経口モルヒネの効果の検討を行ったところ、効果は同等であった。フェンタニルパッチは便秘の副作用が少なく使用しやすいと報告されている。 今後簡易のパッチも開発予定であり、その使用は慢性痛に広がっていくと思われる。
以上のように腰痛に対する薬物療法を述べた。現在のところ、どの薬物も十分にエビデンスがあるわけではない。今後の研究が期待される分野である。
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